いよいよ大詰めの第5話
品質管理を統括している島田多美夫さんにバトンが託されました。
食品を扱うので当然ながら大切な品質の管理。
ぎょれんOBならではの食品に対する想いから
一次産業全体の問題、そこから続く「本当の楽しさ」とは、
われわれ建設業界にも通じるとても為にお話しを頂きました。
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インタビュアー 佐々木)以下、S
「チーズ作り、大変興味があります!」
「食べ過ぎることもあるし展示会に通ってたりもします。」 (第4話参照)
島田さん)以下、Sさん
「チーズ作りにも色々な工程があって、見て面白い工程にはもうちょっと時間があるので
それまでは、食品というものづくりについて私から説明いたしますね。」
「私はぎょれんで仕事をしてきたので一次産業の現状をそれなりにお伝えできると思います。
職人不足や後継者の育成はいかんともしがたい問題で、残念ながら改善の兆しがありません。」
S)
「建設業界も職人不足が課題となっています。」
Sさん)
「思うに、一次産業の仕事そのものが楽しくなくなったことが原因と思っています。」
S)
「楽しくない?」
Sさん)
「楽しくないですね。先に法規、ルールに固められているので
モノを創るうえで、まずクリエイトすることよりも、いかに
そのルールをクリアすることが今は優先されている感じがします。」
「食品に関しても建築に関しても、偽装問題が発生したこともあって
一層のルール強化がなされました。ルール自体は当然悪いものではありませんが、
まずそこをクリアしないとモノとして成り立たない。
これはルールの範囲内なのかという減点法から始まるモノ作りが
楽しさの本質を失わせた気がします。」
食品衛生管理者のベテランによるまさかの一言から始まるのです。
Sさん)
「元来、モノ作りは職人たちの技術とプライド、そして互いの信用から成り立っていました。
下手をできない、いい加減な仕事はできない、と。
自分自身に対する信頼と他人との関係のうえで、今までの製品を超えるモノを創ってやろう、
という意欲のなかに仕事の面白みがあったと思います。」
「まず最初に考えるのは、過去を超えるものを創ろう。そこから始まって、
ルールは後から付いてくるもの、昔はそんな仕組みでした。
今は、まず最初にそれがルールから外れていないか、を考えないといけません。
必然的に、同じ品質で大量に生産できる機械が主役となり、
人間は機械の補助的な役割に追いやられます。
そこに個々の職人の技術やイノベーションは必要とされません。」
S)
「チーズ作りのために機械をイタリアから仕入れたと聞きました。
日本の機械ではダメだったのでしょうか?」
Sさん)
「ジョバンニのオーダーですべてイタリア製となっています。
職人にとって機械はあくまで道具。使いやすい道具を選ぶのは彼らにとっては当然の事でした。」
「モノ作りには人間の感覚が重要です。手作りとはそういうものです。
その感覚を使って試行錯誤する姿が、仕事は楽しい という感情に
つながるのではないでしょうか。」
S)
「機械化や効率化が、楽しさをスポイルしていると?」
Sさん)
「仕事はきついです。あとから見てもらいますが、職人は朝早くから夜遅くまで、
ひたすらチーズを作ります。それはキツイですよ。
でも出来上がったモノが、自分の満足度を超えたしたり、褒められたり、
人に喜ばれたりすると、途端に楽しさに変わるのです。
仕事はつらい、きつい、
でも結果、褒められたり喜ばれたら楽しくなる。
他のチーズも食べたうえで“やっぱりこっちが美味しい”と言われるから楽しくなって、
やりがいにもなるのです。減点法におびえながら、ルールを意識しながら、楽をしながら、
仕事がそんな状態では楽しさなんて得られません。」
S)
「立ち入り禁止のラインの向こう側を見てみたい気持ちと似てたりしますかね。」
Sさん)
「ルールがあるなら俺はそのギリギリまで挑戦して、もしかしたらちょっとはみ出しちゃう
かも知れないけど、こんなモノを創ったんだ、という気持ちって楽しいじゃないですか。
もちろん、素人や技術不足に人間がそんな事しちゃいけません。
技術を磨いたうえで、この人は下手をしない職人だという互いの信頼関係をもった上で、
挑戦するんです。技術や経験がなくても誰でも同じものが作れる仕組みとは、
正反対の世界です。」
S)
「職人といってもいまいちレベルが解らないから信頼できるのか判断に迷いますけどね。」
Sさん)
「建設業なら、例えば10年大工をやったらマイスターの称号をもらえるとか、
分かりやすい制度があったら良いんじゃないですかね。」
S)
「思うと、ヨーロッパにはマイスターみたいな職人を育てる環境があるように見えますね。」
Sさん)
「ヨーロッパとモノ作りとアメリカを手本とした日本のモノ作りは根本的に違いますよ。」
S)
「ヨーロッパVSアメリカ?」
Sさん)
「アメリカの自動車は機械が作ってるでしょ?今の日本も当然ながら。
安く大量に一定の品質を作ることで利益を生む世界では、その方法は正しいです。
消費者はモノを沢山買う事ができるし、それなりの満足度もある。
生産側はどんどん効率化し標準化し、より安いコストを求めて拠点を移す。
そうしていくうちに、人間は機械の補助役へと変わるのです。
そしてモノが作ったモノを買う消費者は、やがてモノの価値に鈍感になっていきます。」
S)
「機械がお菓子や車を作る光景は普通ですもんね。風景としては。
機械が職人化してるというか。」
Sさん)
「その光景に映る人間は楽しそうに見えますか?」
S)
「表面的には楽しそうな気はしませんね。。そもそも映っていないし。」
Sさん)
「職人不足の原点はそこだと思うのです。前提として、
仕事の主役から人間が外された光景をみて、職人にあこがれる子供がいるのかと。」
「フェラーリは基本手作りですよ。ちなみに。」
S)
「ラテン系のひとは日本人よりも大らかで細かい仕事はしなそうなイメージがありましたが、
思い返すと、洋服や宝飾など繊細で芸術的なモノもありますね。」
Sさん)
「ダビンチもイタリア人です。」
S)
「でも機械化のなかにあってもモノ作りに挑戦している職人はいると思いますが。」
Sさん)
「当然です。あくまで機械が主役であってはいけない、という意味です。
繰り返しになりますが、人の感覚の中に技が埋まっています。
それが苦労の末に表に出て現れることで製品が出来る。
その価値をきちんと褒める人がいる、喜ぶ人がいる、
その繰り返しが仕事を楽しむことだと私は思います。」
「そろそろ見応えのある工程の時間なので、どうぞ。」
いよいよ工場に入ります。
手作りへの想いが伝わるでしょうか。
次週までのあいだ、変身後のすがたでお楽しみください。